不快指数。
線香花火のようなハダカ電球のもと、
取り扱い説明書を開く。
テレビ、ビデオ、
こいつでリモコンが3つになった。
今年の夏は快適マイライフだ。
チリリリ〜ン… チリリ、ガチャ、
ハイ中村ッス!
坂口政明はいつもと変わらず、
モシ〜オレだけっど〜、ときた。
オマエ、今、何シテンノ…
ヘ〜、買ッタンダ、エアコン。
ソリャ、家ニ居タイヨナ。
ワカッタ、マタナ…ガチャン。
アイツはやさしい奴だ…。
涼しい…なァ。
ミ〜〜〜〜〜〜〜〜ン
立ち上がり、窓を開けてみた。
アツ〜ッ! 熱帯夜、だったんだ…。
湿気おびた熱風が首筋にまとわりつき、
血管を見る見る露にしてゆく。
軽い立ちくらみの中、
ふと遠い記憶が蘇った…。
熱くて熱くて、神社の冷たい石畳で寝た、夏。
熱くて熱くて、深夜の区民プールに忍び込んだ、夏。
不快指数が上がれば上がるほど、
無茶した夏…。
タバコを尻ポケに突っ込み、ビーサンをつっかけ、
表に出た。
テレステ! テレステ! ハァハァ! ハァハァ!
テレステ! テレステ! ハァハァ! ハァハァ!
走りながらオレは10円玉を握っていた。
走りながらオレは赤電話を探していた。
四畳半のボロアパート。
電話も便所もなかったあの頃。
365日が真夏だったあの頃…。
あの頃のように、
赤電話の前でマイセンライトに火をつける。
アッオレオレ、中村ダョ!
オウ! 今イクゼ!…。
トランクスが激しく尻に食い込んでいる。
おそろしく不快だ。
ん〜、夏が来た…。
「おさむ日誌ー28の夏より」